Fair is foul, and foul is fair.
「僕には、君への恋心が無い」
つまりこれは、恋い慕う男に尊厳を犯されただけの話で。
第一章
雨に助けられた。
吉田松陰は裏路地を埋め尽くした血溜まりが、降り注ぐ雨によって裏路地の溝に流れていくのを確認して安堵の溜息を吐く。少なくとも、追っ手が気付く事はあるまい。
雨に打たれるのを避け、半地下のような構造になっている建物の鉄扉をこじ開けて中を見る。
察するに、長年使われていない倉庫のようでがらんとした棚には、埃が何かの生き物のようにそこかしこに積もっていた。
松陰は自身の外套と上衣を脱ぎ、薄暗い倉庫の床に敷く。白地に松柄の外套は捨てる寸前の雑巾の方がまだ体裁を整えているほどで、それはずたぼろに引き裂かれ夥しい血に塗れていた。
だが、埃と砂利が混じった床に直接寝かすよりはマシだろうと自身に弁明する。
松陰は顔を上げて、鉄扉の入口付近に眼をやる。
「……っ…」
そこには、白地の羽織から染み込んだ血が滴り落ちるほどの血塗れの高杉晋作が座り込んでいた。
焦点は合っておらず、ひゅーひゅーと穴の空いた袋から空気が漏れる音が雨音に混じる。
実際、身体の何処かに穴が空いているのだろう。サーヴァントという魔力で構成された身体でなければとっくに絶命しているほどの死に体。
松陰はぎりと奥歯を噛み砕く。晋作の霊基は最早消滅寸前で、令呪で霊基を修復出来るマスターとは逸れてしまっている。
松陰は触れればそこからぼろりと晋作の身体が崩れ落ちてしまうのでは、という恐怖を感じながら、水溜まりから雪を掬うような繊細さで晋作を抱き上げる。
重い。
致死量の出血をし、肉も骨も削がれてしまっているのに、だらんと脱力し切った晋作の身体はずしんと腕に響いた。
あまりにも重くて、重くて、重くて、目の奥が熱くなる。
きっと、自分の骨は軽かっただろう。
だから今は。
教え子の重みがまだ生きていることを教えてくれていた。
◇ ◆ ◇
マスターと複数のサーヴァントが特異点修復のためにレイシフトし、そこには松陰と晋作も組み込まれていた。
レイシフト先では、オリュンポスを思わせる近未来的な建造物が幾つもあり、その調査中に敵の奇襲があった。
完全に不意を突かれた混戦となり、一時撤退を余儀なくされる。松陰は殿を務め、晋作は宝具を撃つ。
晋作の宝具はその時代における最新のものが適用範囲となるため、この特異点では無類の強さを発揮した。だが、それでも現段階で多大な負荷を負ってまでの最大開放は出来ない。
松陰はマスターが他のサーヴァントに護衛されながら戦線を離脱出来たのを肉眼で確認した。と、同時に敵の集中砲火を受けた晋作が後方に吹っ飛ぶ。宝具から逃れた敵が晋作を脅威と見做したのだ。
傷を負った晋作を庇いながら応戦し、松陰は何とか裏路地に逃げ込んだ。マスター達とは完全に逆方向に走ったため、すぐには合流は出来ない。何より、晋作の状態が悲惨過ぎた。もう合流の移動が困難なほど身体を、魔力を、霊基を消耗している。
松陰は晋作の身体を床に敷いた自分の外套の上に寝かす。吐血するほどの血も体内に残っておらず、自身の白地の衣装を自慢げに語っていた教え子は見る影も無く。
不安を煽るほどゆっくりと上下する胸だけが此処に身体を留めている。
顔を覗き込む。
爛々と輝いていた紅い瞳は消えかけ、虚ばかりを見ている。青白さを通り越して血管が透けて見えるほどの白い肌は、血に塗れていない箇所を見つける方が難しかった。
松陰は爪が食い込むほど拳を握り締め、今から自分がしようとしている事に吐気を覚えた。
霊基が損傷し、魔力による修復も見込めない場合の魔力供給の方法は事前に個別で説明を受けている。
繊細な魔力操作が出来ない松陰でも、あの維新都市で松陰と晋作のパスが繋がったため他でも無い晋作にだけは魔力供給が出来る。
魔力は体液に溶けやすい。そのため粘膜接触・体液交換が効率良く、精液には一番濃い魔力が揺蕩っている。つまりは粘膜に直接精液を注ぐしか無い。
説明内容を反芻し、呑気に聞いていた自分の横っ面を張り倒したくなった。
「晋作」
顔を覗き込んだまま、声をかける。返事は無い。反応も無い。
ただ、死にかけの眼が何処も見ていない。
松陰は顔を傾けて晋作に口付けた。
息をするだけで擦り減る身体は身動ぎせず松陰の舌を受け入る。鉄の味がする。甘さなど微塵も感じられない苦さを舌の上で転がし、己の唾液を流し込む。
飲み込む音は聞こえない。
松陰が顔を離せば、晋作の狭い喉奥に血が溜まっており、ごぷりと泡立った。
「…っ……!」
思わず自分の胸を強く掴む。大声で叫び出したい衝動に駆られ、皮膚の下を虫が這いずっているような不快感に精神が保っていられない。
迷っている暇など無い。葛藤するだけ時間の無駄だ。許しを乞うている間に手遅れになる。
松陰は晋作の下穿きに手を伸ばした。
着物の裾から手を入れれば、ぐちょりと血が手を濡らす。氷のような汗が止まらない。首を落とされる時でさえ微動だにしなかった身体が戦慄く。
本当にこの方法しか無いのか。冷淡な自分が囁く。五月蝿い、と松陰はそんな自分を殺した。
座に登録されているサーヴァントは消滅しても再召喚される可能性が高い。
けれども、けれども、その特殊な召喚故に次に召喚された『高杉晋作』が自分の知る『高杉晋作』であるとは限らないのだ。
松陰は胃液が込み上げるのを無理矢理呑み込み、晋作の弛緩した下半身から下穿きを下ろして陰茎も臀部も露わにし、足を広げさせて自分の身体を割り込ませた。
武家らしい矜持を持ち続けた麒麟児は、師に犯されてまでも現世に留まりたいと望むだろうか。
目の奥まで針に刺されたように頭が痛む。全身を機械仕掛けの絡繰で引き絞られているようで、喉が、臓腑が、魂が絶叫している。
自身も下穿きを下ろし、緩く勃ち上がっている陰茎を血で濡れた手の平で擦ると硬さを増してきたそれに侮蔑の笑みが浮かぶ。
本能か責務か塵のような願いか。
軽蔑され、二度と師と呼ばれなくても仕方が無い行為で、それどころか手籠にされたと知れば殺されるかも知れない。
その全てを甘んじて受け入れる。無抵抗で首を差し出そう。
ただ、あの時代を孤独に駆け抜けた教え子を、何も出来ないまま失いたくないだけだ。
晋作の腰を軽く持ち上げ、後孔に血と先走りで濡れた指を差し入れる。弛緩しているのは手足だけでは無いようで、緩んだ尻穴は何なく松陰の指の根本まで受け入れた。
それでも晋作の反応は、無い。常に快活に囀る口はただ血に塗れていた。
二本目の指を入れると纏わり付いた肉襞が柔く蠢き、雨に濡れた体温を僅かに上昇させる。松陰は晋作の太腿をぐいっと押し広げ、唆り勃った肉杭を後孔にあてがう。
視界がぐにゃりと歪む。下顎に力を入れて嗚咽を堪える。何故自分が先に死ななかったのだと因果を呪った。
ずぷりと亀頭が後孔に吸い込まれ、弛緩し切った内臓は抵抗を見せず肉杭を丸呑みした。
その衝撃故か、晋作がごぷと喉奥に溜めた血を口から漏らすが松陰は構わず腰を進めた。
一刻でも早くこの地獄のような時が過ぎ去ってくれと懇願する。
これは誰のための強淫なのか。薄汚い穢らわしい。恐慌が嘔吐と嗚咽と共に胃の底から迫り上がる。
もう、名を、呼べない。
死してもなお誇りに想える教え子の、名を、もう。
松陰は最初、気付けなかった。
揺さぶられた死にかけの晋作の喉が、唇が、確かに意思を持って動いたのを。
「……ぃ……ぅ…」
表情を動かす力すら失くした晋作が微かに言葉を発する。松陰は滲む視界の中、ようやくそれに気付き動きを止めた。
鮮烈な夕焼けのような瞳が松陰を見ている。最期の灯火を燃やすかのように、晋作は喉を震わせた。
「す、き、で、す」
こぷりと血が溢れて、
ぽたりと雨が落ちた。
無理矢理に足を広げさせられ、師の陰茎で犯されている現実には不釣り合いの吐露に言葉を失くす。
これ以上失くなるものがある事に驚く。
松陰が自分の瞳から溢れ落ちたものを認めることはなかった。
「……僕には、君への恋心が無い」
つまりこれは、恋い慕う男に尊厳を犯されてるだけの話で。
晋作の血に塗れた唇がほんの僅か、弧を描いた。
「……な、い、で」
それは気にしないでと言ったのか。
それとも泣かないでと言ったのか。
建物の外に降り注ぐ雨は血溜まりも何もかもを洗い流し、地面に雫の跡をつけては消える。
それでも遠くの空は薄明るく、涙雨が通り過ぎる時はすぐそこまで迫っていた。
失いたくないと叫んだ。
身勝手で滑稽な願いごとは空に流れた。
ぼんやりとした頭でも、何をされているか分かった。分かったけれど、割とどうでも良かった。
そんな事より、敬愛する師が、人生の恩師が、途方も無い苦痛に見舞われている。業火に焼かれているような惨痛に顔を歪ませている。
何がそんなにお辛いのか想像も出来なくて、
ただ胸に去来するのはいつもの先生の顔ばかり。
何とかしなければと心だけが逸るのに、指先どころか呼吸もままならない。せめて、声だけでも。言葉だけでも。
この雨を止めることが出来るのなら、矜持も命も全て喜んで捧げるのに。
虫の息の告白と同時に恋慕を自覚する。なのに次の瞬間には一蹴されて、なんて鬼畜なのだろうと笑ってしまった。
嗚呼、好きだ。好きだ。好きだなぁ。
あなたの眼を通して見る世界はこんなにも面白くて、こんなにも美しい。
それは今を憂い未来を灯す羨望でも確かにあったけれど、無自覚の恋情と幸福に満ちた自分だけの煌めきでもあった。
手の届かぬ夜空に或る紅い十字星は堕ちてはこない。堕ちてはいけない。
誰もが見上げては焼き焦がれるあの星は、決して、決して、自分なぞの願いを叶えるために流れてはいけないのだ。
◇ ◆ ◇
「……という訳なんだが、どう思う? マスター君」
「それ本当に今すぐ答える必要あります⁉︎ 俺まだレポート終わってないんだけどぉ!」
藤丸がひぃひぃ言いながら画面と資料を交互に見てはキーボードを叩く。晋作はその横に備え付けられた藤丸のベッドに我が物顔で寝転んでいた。
あの後、松陰から性交という形で魔力供給を受けた晋作は息も絶え絶えながらに霊基を維持し、藤丸達と合流出来た。
令呪により再び宝具を撃てる程に回復し、特異点は無事修復された。だがカルデアに戻った時、晋作は藤丸とダ・ヴィンチに耳打ちした。
『先生がおかしな真似をしないように見張っといてくれ』と。
性交という形ではあったが、松陰にとって見れば同意の得ない強姦に等しい所業だったのだろう。憔悴と言うのが生易しく思えるほど、ぬばたまの闇のように昏い表情をしていた。
それこそ自害をしても違和感を覚えない程の。
「仕方ないだろ、他に話せる奴がいないんだよ」
晋作は肘枕をつきながらわざと軽い口調で話す。藤丸は手を止め、神妙な面持ちを晋作に向けた。
「……逸れた時に何があったのかは、報告を受けています。事実、高杉さんの宝具がなきゃ決め手に欠けてた」
「先生の行為は正しかったと?」
「良し悪しを決める権利なんて俺にはないよ。判断ミスも指示違反もあった。それでも無理強いも強制も出来ない。俺はみんなの選択を信じるだけだよ」
ふむ、と晋作は自省した。百戦錬磨のマスターに向かって意地が悪い問いかけだったなと。
結局、松陰の真意が分からないから苦悶している。
『あれ』は戦略的に必要な行為だったのか、それとも教え子の喪失を恐れる焦りだったのか。その根本に恋心が無いと言うのならば、どうしてあんな顔をしていたのか。
あれから、互いに避けている。声も聞いていない。それに寂しさよりも安堵を感じているのだからお手上げだ。晋作は自虐的に笑った。
沈黙してしまった晋作に、藤丸は心配そうな表情をしながらも再び画面と向き合う。暫く、かたかたと控えめな打鍵音がマイルームに響いた。
「………会ってないんですか?」
「合わせる顔がない」
「先生が、高杉さんに?」
「僕が、先生に、だ」
それだけを答える。
耳の奥でばらばらとあの日の雨音がする。時雨のような侘しさに湿った匂いと鉄錆の匂いが入り混じり、壊れた再生機はこの身を犯す男の顔を脳裏に延々と映し出す。
その眼が、その瞳が、その星が、今は耐え難い。
晋作はベッドの上でうつ伏せになり、顔を隠した。藤丸はちらりと晋作を一瞥すると、別のタッチパネルを操作する。短い呼び出し音の後、今、一番聞きたくない人の声が応えた。
『はい、マスター』
「松陰先生。高杉さんがお話があるそうなので、今晩高杉さんの部屋に行って下さい」
「っ⁉︎」
『——分かり、ました』
晋作ががばりと身体を起こした時には通話はすでに切れていた。
「おい! 君、勝手に!」
「高杉さん」
「な、なんだ。改まって」
「叶わなくても、満たされなくても、望むこと自体に意味はきっとある。でも、どんなことをしても高杉さんに消えて欲しくないとあんなに願った人が、高杉さんの望みを無下にはしないと思うよ」
そんな無責任な事を言って、藤丸は雲の切れ目から差す晴れ間のような眩しさで、にかっと笑った。
「日の本一の長州男児の肝っ玉が小さいぞ! 結果は聞いてあげないけどがんばれ!」
◇ ◆ ◇
片付けようにも片付かない私室の床がようやく見え始めた。
絡繰やらガラクタ、書物やら意図不明なものやらを隅にやると落ち着ける場所がベッドしか無くなってしまって、晋作は天を仰いだ。
馬鹿正直に松陰を私室で待つ必要は何処にもなく、以蔵の私室にでも逃げ込んでしまえばいいというのにそれが出来なかった。
出来ないのが高杉晋作という男である。
動けば雷電の如く発すれば風雨の如し。屋根のある場所で合わせる顔のない人を模した人形でままごと遊びに興じるぐらいなら、嵐にこの身を晒して竜巻に切り刻まれても会いたいと思うのだ。
控えめなノック音。
跳ね上がる心臓を抑えながら、晋作はどうぞと答えると松陰が姿を見せた。
久方ぶりの薄明るい灯りの下で見る松陰はいつも通りの姿だが、彫り深い顔立ちに影が差している。
眼鏡をしていない。多分、それは晋作と同じ逃げないという意思表示なのだろう。
「……体調は」
重みを感じさせた低く昏い声に晋作は一瞬反応が遅れる。薄明るい筈の室内の明度が低くなったような気さえした。
「体調は、大丈夫なのですか?」
今はその気遣いが痛々しく、晋作は曖昧に笑って大丈夫ですよと応え、唯一空間のあるベッドに腰掛ける。
晋作が促すと、松陰は僅かに身じろいだが無言のまま晋作の隣に腰掛けた。ぎし、とベッドが軋む音に晋作の心臓がひっくり返る。
ただただ師を敬愛していた頃の自分の振る舞いが思い出せない。
恋慕の自覚をした今はその姿を見るだけで、癖のある黒髪も雄らしい骨格も、膝の上で組んだ太い指も憂いに帯びた深緋の星も、何もかもが自分を浮き立たせる。瞬き一つで頬が上気する。
けれども、こんなに恋しいのに、その欠片でも口にすれば傷口から血潮が溢れるだろう。晋作ではなく、松陰の傷口から。加害者の傷は未だ塞がらず、被害者の傷は最初から無く。
何でもない事だったと、自分が擦り減ったものは何一つないのだと、晋作がどれだけ心の底から肯定しても松陰には何の慰めにはならないのだろう。忘れても無くしても、形が残ってしまった。埋めても塞いでも、穴は空いてしまった。事実は、消えない。
きっと自分達はどんなに取り繕っても以前のような関係には戻れないだろう。師弟という関係にさえ戻れず、加害者と被害者として。
それでもいい、と晋作は強く眼を瞑った。あなたが此処に現界してくれるなら、あなたが未知の世界に眼を輝かせるなら、想いが繋がらなかった他人同士として生きていける。
それでいいから、と晋作は嗚咽を呑み込んだ。
だけど、最後に、星に願いを。
晋作は自刃する覚悟で隣に座っている松陰の腕に縋り付いた。
「……もう一度、抱いて下さい」
松陰が眼を見開く。間違った事を言っている事は分かっている。こんなの、恋しい人を改めて壊すだけだ。負い目に付け込んだ浅ましい願い。
けど、けど、けど!
「先生が僕への恋心が無いのは理解しています。でも、僕は先生に何をされても恋してる。報われなくていい、恋をしなくていい。けど、先生がこんなに好きだと云う僕の姿だけを覚えていて欲しい」
だから、もう一度だけでいいから、抱いて下さい、と。
あなたに恋をした僕が、あなたの想い出の中でしか生きられないのなら、せめて、死にかけの僕が犯されてる姿ではない僕を留めて欲しい。
晋作は縋り付く指に力を込め、あの日のような冷え切った松陰の体温に歯噛みしながら、恐る恐る顔を上げる。
そうして、間近で松陰の深緋の十字星を見て、晋作は悲鳴を上げた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 先生、ごめんなさい、戯言です、忘れて下さい、許して下さい。嘘、嘘です、全部うそでいいですから、おねがい…」
悲痛に叫びながら弱々しく声が搔き消える。嗚呼、やはり分不相応な身で身勝手な願い事など口にするだけでも罪なのだ。ならば罰こそは自分に与えて欲しい。晋作は自責で目尻に涙を溜めて懇願した。
そんな顔しないで、と。
罪人のような顔をしないで、と。
人知れず鳴く鵺鳥の嘆きを愛おしむように、晋作は松陰の身体を抱きしめようとして自分にはそんな資格は無いのだと凍り付く。
先生は、僕を好きじゃない。
願いを叶える義理なんて無い。
今、此処にいるのは、存在するだけで恋してる人を罰するだけの呪い/自分だ。
晋作は縋り付く腕を離して松陰との身体から距離を取った。取った筈なのに、互いの身体を隔てるものが零になる。
晋作を抱き竦めたのは松陰の腕だった。
「僕は外道だ。人でなしだ。君が僕に恋をする価値なんて無い」
相変わらず真意が見えない言葉に晋作の瞳が戸惑いに揺れる。
なら、なら、なんで、こんなに愛おしそうに僕を抱きしめるのですか?
松陰の黒髪が晋作の頬を撫で、その肩口に額を埋めてぎゅうと晋作の華奢な身体を強く抱きしめた。
晋作の耳の奥で降る筈の無い雨音がする。熱を奪う冷たい雨ではなく、生気を齎す慈雨のような。
松陰が言葉を続ける。
僕は外道の癖に、
「君が、大事だ」
魂の底まで響く真摯な声音に、晋作は自分の耳を疑う。
「大事なのに、短絡的に君を犯した。大事だから、ただ失いたくない一心で君を凌辱した」
晋作は松陰の言葉に心臓の動悸が激しくなるのを抑え切れず、無意識に抱き締め返す腕に力を込めていた。耳の奥から聞こえる雨音は、沸騰した血を駆け巡らせる鼓動に擦り変わる。
松陰が息を詰める。
呑み込んだ筈の嗚咽を再び吐き出すように。
「許されない事をしたのに、もう一度君を抱きたいと思っている」
自分を抱きしめる腕が、声音が、雨が、自分に許しを乞うていた。声にならないのは許して欲しいという声で、それは全身の熱に訴えていた。
「…こんな薄汚くて穢らわしいものが恋心である筈がない」
それが、生涯、恋というものを知らずに生を終えた人の結論。
晋作は松陰から身体を離し、自身の涙が溢れ落ちるのも厭わず、松陰の頬を手の平で拭った。
愛おしさに心が蕩ける。切なさに胸が高鳴る。真摯過ぎて生きるのが不器用な人だとは思っていたけれど、まさかここまでとは思わなかった。
先生、先生。それをなんと呼ぶか先生は知らずに僕を汚したのですか。
「先生。愛は汚いものです。それでも手放せないのが、愛です」
晋作は微笑む。松陰は家族の愛を、友人の愛を、師弟の愛を、国を想う愛を知っている。自身の欲を満たす低俗なそれではなく、思いやり慈しみ、己を犠牲にしてでも尽くす愛を知っている。
けれども、塵でも屑でも下種でも汚濁でも、誰に認められなくても、誰に許されなくても、手放すぐらいなら破滅しても良いと思えるほどの激情は知らない。知らなかった。
なれど愛は無辜だ。
松陰は一頻り濡れた睫毛を瞬かせ、微笑む晋作を見つめる。そうして、その類まぐれな聡明さが自分の行為と晋作の今まで全ての言の葉を腑に落とす。
そうか、と松陰は放心したまま小さく呟いて、ふいに紅い十字星を一層煌めかせ、顔を綻ばせた。
「そうか、これが愛か」
松陰は手を伸ばして、自身の頬に触れている晋作の指を柔らかく掴む。
「世の中、僕の知らないことばかりだ」
それが何よりも嬉しいと、松陰は笑った。
◇ ◆ ◇
ちゅ、ちゅと音を立てて口付けの雨を降らす。火照った体温が切なくなって、もっともっととせがんでしまう。唇を、頬を、顎を、首を愛でる。服が邪魔だ。布の薄ささえも野暮ったく思える。
晋作は自身の羽織を肌けさせ、松陰の襟締に指を引っ掛けようとした瞬間、するりと指が空を切る。
「し、晋作、その」
松陰が身を後ろに引いたのだ。嘘だろ。
「え。これ完全にえっちする流れじゃ無いですか」
「流れ等と言う曖昧な表現は避けて下さい。その、今から、本当にそういった行為をするのですか?」
「先生こそめっちゃ曖昧な表現していますよ。僕は先生に抱かれたい!先生は僕を抱きたい!両想いですやったあ。そんな訳で僕達を隔てているのはこの一枚の布だけです」
「晋作、身体は」
「勃っている以外は特に」
晋作が素直に白状すれば、生真面目と云う言葉が服を着ているような松陰がさっと頬を染める。あれま、こんなにも可愛げのあるお人だったのだろうか。
脳が煮え立つ衝動のまま更に手を伸ばす。今度は身を引かなかった松陰だが、微かに身体を硬くさせた。
晋作の胸につきんと鋭いものが突き刺さる。
「……僕を抱きたいと言うのは嘘ですか?」
「まさか」
松陰は躊躇わらず晋作の頬に親指を這わす。表面をなぞるだけの泣きたいぐらい優しい手付きで。
「君に酷いことをしたくないだけだ」
先程まで煌めいてた紅い星に僅かに翳る。晋作は自分の頬を撫でる松陰の指をぎゅっと握り、そのまま自分の顔に強く押し付けた。
「じゃあ大丈夫です。僕には口も手も足もあるのだから、先生が酷いことをしようとしたら噛みついて殴って蹴り飛ばして差し上げましょう」
忘れもしない、消えもしない、けれども忌まわしいと云うには哀傷を残し過ぎた影はこれから先も松陰の胸を苛むだろう。
その度に思い知らせてあげよう。この恋心には罅すら入らないのだと。
頬で重ねた指に熱が灯る。松陰は困ったように眉を寄せて、それでも小さく笑った。
「それは頼もしい」
舌の根から溶けるような深い口付けをして、互いの服を脱がせた。
◇ ◆ ◇
「————っぅ!」
呻き声が漏れる。異物感に鳥肌が立つ。快楽には縁もゆかりも無いような、ただ肉を直接抉られている感触。きっと串を刺された鶏もこんな気持ちだろうと場違いな事を考えて思考を逸らす。
二人は一糸纏わぬ姿になり晋作のベッドの上で身体を重ねる準備に入ったが、晋作の後孔に松陰の指が一本入っただけで、朱に染まっていた筈の頬を僅かに青ざめさせた。
「晋作、大丈夫ですか」
「だ、だいじょうぶ、です…っ」
「……中が大分狭くて締めつけているのですが、本当に問題は無いですか?」
言わないで欲しいなぁそういうこと!
晋作は胸中で叫びながら何とか力を抜こうとシーツに爪を立てるが、全くうまくいかない。けれども、うまくやらなければ。
「なれ、慣れれば、だいじょぶ、です…っ、中、に、僕の、イイところが、あるので、探して、くだ、さい」
異物感を無視しながらわざらしく煽れば、翳りを見せていた松陰の瞳に好奇が宿る。
師の探究心に火を付けることが出来たようで、晋作は安堵しながらもこれから来る衝撃に備える。うまく、うまくやらなければ。
何とかしなければと今だって思う。だってこれは強姦でも凌辱でも無い、愛の証立てなのだから。
「…っ、ん、はっ…、っっぅ、!」
内臓を直に触れられている感覚に肌が粟立つ。松陰は晋作の反応を見ながら、後孔に埋め込んだ人差し指で肉壁を時計回りに擦っていく。
律儀に満遍なく襞をなぞられ、潤滑剤がぐちゅと卑猥なだけの音を立てる。晋作は必死に不快感を受け流して松陰の指の動きに集中する。
そうして、下胎側の小さな膨らみに松陰の指が到達した。
「——う、ぁっ、♡」
前立腺を指の腹でやんわりと撫でられ、遠雷のような快感が喉から勝手に声を漏れさせた。晋作は咄嗟に口を両の手で塞ぐ。なんだ今の声!
遊女のような甘ったるい声が自分で信じられない。異物感に青ざめていた顔が見る見る内に赤くなって焦りが生まれる。こんな声、恥ずかしくて聞かせられない。
反応が違う事に気づいたのか、松陰の指がそこばかりを優しく触り始めたので、晋作は後孔から疾走してくる快楽を拾わないように必死に歯を食い縛った。
「声が出ると辛いのですか?」
顔を覗き込んだ松陰が心配そうに眉を顰めた。胸が締め付けられる。
嗚呼、好きだ。どうしようもなくこの人が好きだ。罅が入って欠けるなんてあり得ないこの身体を、罅だらけの手で慈しんでくれるこの人が。
晋作は口を塞いでいた手を離し、肘で身体を起こして、松陰の唇にふにゅと柔く口付けた。
「へ、へんな、声、を…、聞かせたく、ない、だけです…。その、お嫌、で、しょう…っ」
へらりと呑気に笑おうとして失敗した。羞恥と焦りに瞳が揺れる。
松陰はそれを何なく受け止め、目尻を緩ませた。
「君の声は心地良いから、もっと聞かせて欲しい」
微笑まれ、晋作は真っ赤な顔から湯気を上げて無血開城した。心がさんざめく。羞恥を押し除けて歓喜が転げ回る。
これは愛の証立てなのだから、先生の望むままにしなくては。
晋作は観念したように眼をぎゅっと瞑って、指先で頭の下の枕を握りしめる。まな板の鯉になった晋作に、松陰は満足気のある顔で笑って、後孔を指で弄るのを再開した。
「あ、っ、んぁ…、ん、ん♡」
悦楽に染まった声が喉奥から漏れるが、まだ気恥ずかしさが混ざって無意識に口を閉じてしまう。
松陰が晋作の太腿をぐいと外側に押し広げると、その反動で晋作の腰が浮き上がり、中で弄ぶ指に前立腺を押し付けてしまう。
「っぁ、あ、ひっ♡…っ〜〜〜〜〜♡はぁ——っ…、はっ、っぁ、んぁあ♡」
肉壁にある膨らみの縁をなぞられれば色情が蛇のように畝って背骨を駆け上がる。膨らみの中心を愛でられれば脳髄を直接灼くような快楽に喘ぎを止められない。
うまく、うまく感じなければ。
情交は決して罪でも罰でもなく、互いに快楽を与え合う素晴らしく気持ちの良い行為だと、理解して欲しかった。出来れば致命傷にもなり得た強淫を塗り潰したかった。
けれども芝居をしてはすぐに見抜かれる。だから羞恥に泣きそうになりながらも、後孔の膨らみを撫でられる度に発生する刺激を懸命に汲み上げた。
懸命に、懸命に、はしたなさに涙が溢れても、快楽を拾い続ける。
見苦しい、みっともない、恥知らずだ。——こんなに、気持ちが良いなんて。
「しんさく、ここ?」
「ひっ…⁉︎♡うあ、ぁああっ…、♡あ゛っ、ああ゛あぁっ⁉︎♡」
快楽を必死に拾い続けた結果、松陰のぬるりとした指で後孔を嬲られ続ける事は他に何も考えられなくなる程、気持ちが良いものだと脳が学習してしまった。
喘ぎ声を上げ過ぎて口の端から涎が溢れる。まるで淫乱のように腰が揺れる。
その中心にある晋作の陰茎は下胎につきそうな程勃ち上がり、小刻みな痙攣を起こしながら先走りを飛び散らせた。
松陰は指をぐちぐちと前立腺を肉襞に押し付けては、抉るように指の腹で膨らみを回す。その度に晋作は恍惚に蕩けた善がり声を響かせた。
「きもちいい?」
「きもひ、いっ、♡ん゛ぅう゛っ!こえっ、れちゃ、ぅ…っ」
「こえ、聞きたい」
松陰の余裕のない高揚した甘い声に、晋作はハイと従順に頷く。頭の中が白くなって後孔で蠢く指の事しか考えられなくなる。
指が増やされても痛みよりも苦痛よりも喘ぎ声しか上げられない。快楽を拾う感覚が過敏になり、最初に聞こえた遠雷は今や脳髄の真ん中に落ちる。
けれども決定的な頂きにはまだ足りなくて、強請るように胎が媚びる。
「ああ…♡あ゛ぁ……♡せんせ、せんせ、まえ、さわって…、イ、っ…イ゛キ、た…い♡」
「こう? おしえて」
松陰が空いている方の手で、晋作のいやらしく勃ちあがった陰茎にごつごつとした指を輪っか状にして添える。
加減を知らない指使いは潤滑剤のお陰でぬちょりと竿を滑った。
無骨な手が亀頭の先から溢れる先走りを陰茎に擦り込んでいる光景だけで、最後に残った理性の綱が千切れかかる。
そのまま肉棒を上下に愛撫され、以前遊ばれた膨らみが顕著になり、敏感さを増せば成す術がなく理性を手放して善がるしか無かった。
「は、ぁあッ♡ぁ゛、はぁあ♡ っむり、イっぢゃ♡あぁ~~~~~っ♡」
背をのけ反らせ、後頭部を枕に押し付けて一際甲高い声で絶頂を迎え、鈴口から白濁の液を勢い良く吐き出す。
喉奥から喘がなければ胎の底から焼き焦げてしまう程の快楽は恥など吹き飛ばした。
息の吸い方を忘れて甘い声しか吐けない。力の抜き方を忘れて背中をシーツにつけられない。終わらない痺れに一瞬、意識が飛んでいた。
「しんさく、大丈夫ですか?」
汗で顔に張り付いた晋作の紅梅色の髪を指で拭いながら、松陰が恍惚に融解した晋作の顔を覗き込む。晋作は胸で息をしながら、こくこくと頷いて溜息をついた。
良かった。
せんせい、勃ってる。
松陰の陰茎が雄々しく聳えているのを目で確認して、自分のあられもない痴態が松陰の気持ちを萎えさせなかった事に素直に安堵した。
「せんせ…、なか、いれて…」
顔の横についた松陰の腕に、自らの指をついと這わせて欲しがる。一瞬、松陰が何かを呑み込むように喉を詰まらせたが、晋作の指が松陰の肩まで届くと、そのまま引き寄せられるように口付けをした。
「んむ、♡ん、ぁ、ぁ♡」
ぴちゃぴちゃと舌先だけで触れ合う。その間に晋作の開いた足の間に松陰の身体が割り込み、勃ち上がった陰茎同士がぬちょりと触れる。
松陰が身体を起こし、執拗に嬲られ閉じ切らず、縁がひくひくと悶える後孔に自身の硬くなった陰茎を当てがった。そして真正直に正面から晋作を見つめて確証を求める。
晋作はその紅い星を見つめ返して頷き、挿入しやすいように更に脚を広げて膝を自分の方へと引き寄せた。
は、は、と弾ませた息は繋がる期待でもなく暴かれる恐怖でもなく、不安だった。恋しているから、愛しているからこその、憂慮。
そうして、ずぷりと亀頭が後孔に吸い込まれると、松陰の動きが止まった。
紅い十字星から煌めきが霧散し、その瞳の焦点は明らかに此処ではない何処かを見ている。
その額に昂りからではない氷のような汗が滴る。まるで業火に焼かれているような惨痛に顔を歪ませ——、
「せんせぇ!」
何処へも行かせるものか。
晋作は叫んで、広げた片脚を松陰の腰に引っ掛けて自らの腰を前に進めると、松陰が当てがっていた亀頭から雁首がぐぷりと晋作の後孔に埋められる。
「く…っ! しん、さ、く!」
「——っっ‼︎ あ、あぁ、ぁ、はい、った…っ?」
肉杭の最も太い部分が後孔を通過したが、強引に挿入したせいか半分も陰茎が収まっていない状態でそこから前にも後ろにも進めなくなってしまった。
「無茶、を、しないで…っ」
松陰が歯を食い縛りながらもこちらを見たので、見てくれたので。
肉棒がみちみちと後孔の中を隅々まで詰まらせている圧迫感さえも愛おしくなる。晋作は鈍痛に涙を滲ませながらも、願いを口にする。
「せん、せ、僕を、みて。せんせぇ、に、恋してる、僕を、見て。せんせ、に抱かれて、よろこんでる、僕を見て」
謝罪も許しも必要無いのだと永久に理解してもらえなくても、自分を犯したという事実が永遠にあなたを苛んでも。
僕を見て。
この腐り落ちない魂こそが愛の証立てなのだから。
松陰が晋作を茫然と見る。けれどもすぐに松陰は泣きそうな顔で仕方が無い子だと笑って、晋作もそれはこっちの台詞ですよと笑った。
松陰の肉厚な手の平が改めて晋作の腰を掴む。晋作は細く息を吐いて身体の力を抜こうとするが、二本の指よりも太い肉棒を無意識にきゅうきゅうと締め付けてしまい、あ、あ、と涎を垂らす。
なか、はいってる。先生の身体を、一部分を、飲み込んでる。咥えてる。食べてる。
「おく、おくまで、いれて……、せんせぇの、ぜ、んぶ、ちょうだい…♡」
痛みも異物感もあるのに、それさえももっと欲しくて堪らなくなる。受け入れる孔があることに感謝する。胎を揺らして誘えば、ゆっくり、ゆっくりと、松陰は腰を進めた。
「ひっ…! はぁーっ…すき、あぅっ! す、きぃ…っ♡こす、っでぇ…っ♡あぅ、っ♡」
ずぷずぷと音を立てて肉杭がのめり込む。途中、指で嬲られ続けた膨らみを雁首で押され、稲妻のような快楽が脳髄を灼いた。
一度腰を進めれば抵抗はなく迎え入れるように肉襞が陰茎に絡み付き、とうとうその根本まで埋め込んだ。
鉄のような硬い肉杭はどろりとした灼熱で晋作の下胎から焼き焦がす。それだけでも尋常では無い程の快楽に見舞われているのに、松陰が腰を引いて肉杭を晋作の後孔から引き出すと、挿入れているのとは違う気持ちよさに恍惚の声を上げた。
「ひ、あ゛っ、♡あ゛ぁあっ、せん、せぇ…♡や゛、イっ、…っ、っ♡あ、あッ♡」
「ッ、しんさく、動いても?」
「あ、ぁぁ、こす、ってぇ、♡い、イ、はや、く、せんせぇの、好きなだけ、こすってぇ…♡」
喘ぐ声はとっくに意識しなくても喉から漏れ続け、学習した脳髄は快楽だけを受容する。
最初は控えめに松陰の陰茎が晋作の淫らな孔の中を前後する。突かれれば絶頂寸前のような甲高い声で善がり、引かれればねっとりとした陶酔を見せて喘ぐ。
別種の快楽が交互に襲ってきて、晋作は善がり喘ぐ以外の行為が出来なくなってしまう。
瞼の裏に火花を飛び散らせながら、晋作は松陰の瞳の中に抑えきれない興奮を見出して、下胎全体に力を込めて後孔の中にある肉杭をこれでもかと締め付ける。
嬉しい、嬉しい、嬉しい。犬のように舌を出して喜びに全身を痙攣させる。
「はひっ♡せん゛、せ、きもちい? ね、いい?」
「…っ、! いい、です、よ」
松陰の切羽詰まった蜜声に、晋作の口角が歪んで涎が溢れる。その声だけで絶頂してしまいそうだ。
潤滑剤と先走りで肉棒が出し入れされる度に後孔からぐちょぐちょと淫猥な水音が鳴る。胎を打ち付ける度に喉を仰け反らせ、投げ出された足がびくびくと震える。
「あ、…はぁ♡ちゅーしてっ、ちゅーしてぇ…♡」
口付けを誘えば、松陰は晋作の膝裏に腕を差し入れて腰を押し付ける。最奥に亀頭が触れ、ばちんと脳髄に快楽の電流が走って息が出来なくなった。
その隙に、唇に噛み付かれ舌を入れられる。分厚く長い舌で上顎を突かれ、上からも下からも挿入されているような淫らさに視界が反転する。
腰の動きが速くなる。すっかり膨らんだ前立腺は剛直で刺激され続け、終わらない快楽に恐怖など微塵も感じずに晋作はただ喘ぐだけの人形と果てる。それでも叩き付けられる快感に限界が近づいて来た。
「っぁ♡は♡あっ、あ゛〜〜〜♡ っ、〜〜〜〜っっ♡!」
一度も前を触られていないのに、晋作は快楽の濁流に飲み込まれて絶頂した。肉塊で揺さぶられ続けた前立腺は晋作の射精を促し、その先端から小刻みに精を吐き出させた。
意識が飛ぶような快楽の極みが断続的に脳髄を灼くも、松陰が腰を強く掴んでまだ最奥に肉杭を打ちつけているので、晋作の陰茎の先から白濁の飛沫がぽたぽたと下胎を汚した。
「はっ♡あ゛ぁ……♡イ、ッ……♡は、ぁっ♡ぁ゛あ♡」
「——っ!」
一際深い箇所に巨大で硬い肉杭から精液が注ぎ込まれる。晋作はその感覚にさえ恍惚を覚えて後孔を弱々しくも締め付けてしまう。
快楽に茹った頭が天井から降りてこない。晋作は甘イキを小さく繰り返しては腰がびくびくと跳ねるのを無抵抗のまま受け入れた。
胎の底から息を吐かないと酸欠で死にそうだ。汗ばんだ身体にどうしようもない程の多幸感を感じて、気怠い腕を何とか持ち上げて愛しい人を抱きしめた。
すりと頬を寄せると松陰も息を荒げており、それを分かち合うように晋作の汗や涙で湿った頬に口付けを返す。
「好きです、愛しています」
愛を知った人の言の葉は、影も汚れも薄めてはくれないけれど、あるがままに抱きしめてくれる暖かさが確かにあった。
僕もです、と晋作が答えると、松陰はほろ苦さを秘めた星を細めた。松陰は顔を傾けて晋作に口付ける。
眼を瞑って口付けを受け入れた晋作の頬に、天泣が一つ落ちた。